坂の上の雲 老舗MAP 食べる編 相原商店
相原商店
職人の技 白い削り節
伊予市では「白い削り節」が人気だという。
相原商店の白い削り節 某テレビ番組の「カミングアウト!」ではないが「伊予市で削り節と言えば、白い削り節」という話を聞いた。
多くのケンミンが知っている削り節は、どちらか言えば茶色系。半歩譲ってもピンク色だ。それは、原料となる「カツオ」の色。これを何かで晒して脱色したのだろうか、それともカマボコか何かを削ったのだろうか。
その答えは、伊予市の中心部にある相原商店で見つかった。同店は、店舗を構えるだけでなく、自らの工場で削り節を生産している。そして「白い削り節」の正体は、ムロアジの削り節だった。ムロアジはアジの一種。カツオと違ってその身は白い。味は、カツオに比べて少し淡泊だが、風味は豊か。上品な口当たりは、ダシとしてもさることながら、そのまま冷や奴、漬物などにかけて食すとこれまた絶品。伊予市の人たちは、幼い頃から、このムロアジの削り節に親しんできたということだ。
削り節には最適の熊本県天草産・東シナ海のムロアジ
天日干しされたムロアジ もちろん、ヤマキ、マルトモと日本でも大手カツオ節メーカーが拠点を構える同市では、カツオ節もまた馴染みが深い味。まさに「ダシエリア」だ。
昭和の初め頃は、削り節を扱う個人商店は市内に15店くらいあったという。しかし近年、大手の台頭による即席ダシの素の普及や、輸入品などの増加により、削り節自体の消費量は減少。現在では、大手3社と2店ほどの個人商店を残すのみとなった。
相原商店の創業は昭和40年カツオ節メーカーに勤めていた初代・相原冨夫氏が今でいう脱サラで始めた事業である。だから、もともと経験や販売・仕入れルートの目途はついていた。仕入れは、熊本県天草市から。東シナ海を回遊するムロアジは、削り節には最も適しているとされている。漁獲量が少ないため、大手はあまり扱っていないが、相原商店はこれを一年分まとめて仕入れる。そして、その骨を手作業で取り除き瀬戸の浜風で1~2日ほど天日干しにする。
30年代の機械から生まれる、職人技の味
削り機に向かう相原克俊さん 相原商店の「違い」はここからだ。4台の削り機は、それぞれの厚さによって使い分けている。2代目・相原克俊さんの仕事は、毎日削り機のカンナの「歯」を調整すること。ちょっとした狂いも見逃さない。それは、100分の何ミリという世界。まさに職人技―名人芸とさえいえる。歯が回る度に、白く、フワフワの削り節が舞いあがる。袋の上から触ると上質のダウン(羽毛)のようだ。そして、最新の機械では出せない素朴な風合いと味わいを醸し出している。
新鮮・美味な削り節なら、マルに「ア」の字の相原ブランド
2代目・相原克俊さん 相原商店の削り節は、道の駅などで求めることができる。が、意外なことに松山や県内の料理店―そば、うどん、たこ焼きの各店では、すでに多く使われ私たちの口に入っていることがあるのだ。それはアジをはじめ、カツオ、イワシの削り節を各店の用途によってブレンドしたもの。2代目・克俊さんは「手間はかかりますが、皆さん私どもの削り節でなければ…と、おっしゃっていただきますので」と、うれしい反面、責任の重さも痛感すると言う。
最近では「八幡浜ちゃんぽん」のスープ用としての需要も高まっている。“故郷の特産品・こだわりの一品”が見直されている今、新しい広がりも期待できそうだ。昭和30年生まれの機械とともに。まだまだ現役の相原商店である。